この記事の要点
- ESPR第2条(29)のデータキャリア定義は「線形バーコード、二次元シンボル、その他の自動識別・データ取得媒体」であり、QRコードに限定していません。GS1 Digital Linkを名指しで義務化する条文もありません。
- 電池規則は前文(44)でQRコードのISO/IEC 18004:2015準拠を明記しており、ESPR本体との間には技術中立と技術指定という明確な温度差があります。
- 2026年7月14日付でDPPシステムの欧州標準6本が整合規格として告示されました。適合すればESPR第10条・第11条の要求への適合推定を得られますが、安全関連の2本は2026年7月時点でまだ告示されていません。
- 一意識別子は事業者・施設・製品の複数層に分かれており、ラベル1枚に何を載せるかは、この識別単位が決まって初めて設計できます。
- QRコードの最小サイズなど具体的な数値は、二次情報間で内容が食い違っており、確定した一次情報は現時点で確認できていません。仕様書に数値を書き込むのは時期尚早です。
「DPP QR」と検索してたどり着いた方へ——まず正したい思い込み
結論から言えば、ESPR(エコデザイン規則)はQRコードに限定していません。二次元コードであれば種類を問わない、技術中立な規定です。一方、DPPの先行事例である電池パスポートは、QRコードの使用を条文で明示しています。「DPP=QRコード」という思い込みは、電池の話とESPR全体の話を混同していることが多いです。
| 根拠となる規則 | データキャリアの指定 |
|---|---|
| ESPR(エコデザイン規則) | 二次元コードの種類を限定していない |
| EU電池規則 | QRコードを指定(ISO/IEC 18004:2015) |
具体的には、ESPR第2条(29)はデータキャリアを「線形バーコード、二次元シンボル、その他の自動識別・データ取得媒体」と定義し、第10条(1)(c)(d)もAnnex III記載の規格への適合とオープン標準であることを求めるにとどまり、QRコードやGS1 Digital Linkを名指しで指定していません。対して電池規則は前文(44)でQRコードのISO/IEC 18004:2015準拠を明記し、第77条に基づき2027年2月18日から産業用電池(2kWh超)・LMT用電池・EV用電池での表示を義務化しています。自社の製品群がどちらの扱いになるかは、この違いを踏まえて確認する必要があります。制度全体の現在地は欧州DPPの解説で整理しています。
では今、二次元コードの仕様として何が決まっているのか
2026年7月14日付の「Commission Implementing Decision (EU) 2026/1736」により、DPPシステムを支える欧州標準6本が整合規格として告示されました(官報公表7月15日)。内訳は次のとおりです。
| 規格番号 | 扱う内容 |
|---|---|
| EN 18216 | データ交換プロトコル |
| EN 18219 | 一意識別子 |
| EN 18220 | データキャリア |
| EN 18221 | データ保存・アーカイブ・永続性 |
| EN 18222 | API |
| EN 18223 | システム相互運用性 |
これらの規格に適合すれば、ESPR第10条・第11条の要求事項への適合が推定されます。欧州標準化機関では全8本が開発されており、安全関連の2本(アクセス権限管理・セキュリティ、データ認証・完全性)は2026年7月時点で未告示です。データキャリアを扱うEN 18220は、シンボロジー特性・誤り訂正・印刷品質・耐久性・機械可読性などを扱うとされていますが、規格の原文は有償で当方では内容を直接確認できていません。コードの機種がQRやDataMatrixに事実上絞られるかは、現時点で断定できません。
一意識別子は3層——ラベル1枚に何を載せるかという実務課題
ESPR第12条は、事業者一意識別子・施設一意識別子がAnnex III記載の規格(または同等規格)に適合することを求めています。これに製品識別子を加えると、DPPが扱う識別子は製品・事業者・施設の3層に分かれます。適合規格としてISO/IEC 15459シリーズが挙げられるとされていますが、一次情報での直接確認には至っていません。ラベル1枚のコードにどの層の識別子まで含めるかは版面設計・データ容量・可変データ印刷の設計に直結し、生産拠点やロットが変われば組み合わせも変わるため、識別単位を先に決めないと印刷方式もサイズも確定できません。
「10×10mm問題」——未確定の数値を仕様に書き込むリスク
電池ラベルについては、QRコードの配置や表示優先順位を定める実施規則が検討されていますが、2026年1月12日までの意見募集を経た草案段階にとどまり、採択・官報掲載は確認できていません。採択後も施行までに18ヶ月の猶予が設けられる設計とされています。
この草案をめぐり、「QRコードの最小サイズは10×10mm、クワイエットゾーンは4モジュール」という数値が複数の二次情報で同一文言のまま引用されています。しかし別の情報源は「規則はmm単位の最小サイズを規定していない」と明記しており、両者は矛盾しています。当方で一次情報源は特定できませんでした。
これは反面教師です。未確定の数値があたかも確定事項のように拡散すると、担当者が社内の仕様書や図面に具体的な寸法として書き込んでしまうリスクがあります。後で数値が変われば、版下・刃型・検査基準の作り直しが発生します。数値が確定するまでは、コード配置や余白を可変にできる設計にとどめることをおすすめします。
数値が固まる前でも、今からできる準備
未確定の数値(コードの最小サイズ、クワイエットゾーン、配置優先順位など)は、規則の採択を待つほかありません。一方で、規格確定前でも着手できる準備はあります。
- 耐久印字方式の検証:想定する使用環境(屋外・高温・薬品・洗浄など)で、どの印刷方式と基材の組み合わせが判読性を維持できるかを、最終仕様が決まる前から検証しておく。
- 被着体との相性確認:製品表面の材質・形状に対して、どの粘着剤・表面加工が密着し続けるかを事前に確認しておく。
- 小ロットでの先行検証:量産設計を待たず、1品目・小ロットの試作検証を先行させ、仕様確定後の切り替えをスムーズにする。
数値の確定を待つのではなく、確定前に検証できる部分を先に済ませておくことが、実装段階の手戻りを減らします。耐候性の考え方はUV耐性ラベルの解説や粘着力の種類でも扱っています。
ウメモトにご相談いただけること
DPPの法的な適用可否の判断、ESPR・電池規則の解釈、GS1 Digital Linkをはじめとする識別子体系の採否判断は、当方の対応範囲外です。ご相談いただけるのは、ラベルの物理仕様・耐久設計・可変データ印刷、そして小ロットでの先行検証です。コードの最終仕様が固まっていない段階でも、耐久印字方式の検証や被着体との相性確認は始められます。識別の単位や埋め込む情報の層が仮決めできていれば、版面設計についてもご相談いただけます。